なぜ同じ物語に惹かれるのか|キャンベルからスター・ウォーズ、ヒーローズ・ジャーニーへ

コラム

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平凡な場所にいた主人公が、外の世界へ呼び出されます。ためらいながら境界を越え、仲間や導き手と出会い、危機をくぐり抜け、何かを得て帰ってくる。神話、昔話、映画、小説を読んでいると、たしかに似た流れへ何度も出会います。

この「似ている」を20世紀の比較神話学から整理した代表的人物がジョーゼフ・キャンベルであり、その考えを映画制作や脚本術へ橋渡しした流れの先に、ジョージ・ルーカスとクリストファー・ボグラーがいます。

ただし、ヒーローズ・ジャーニーを「人間なら必ず感動する万能公式」と考えるのは行き過ぎです。キャンベルは神話を比較して共通性を論じ、ボグラーは創作で使いやすい形へ整理しました。研究上の見方と、物語を書くための道具は分けて考える必要があります。

1949年、『千の顔をもつ英雄』が示した「共通する旅」

アメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルは、1949年に『千の顔をもつ英雄』を刊行しました。ジョーゼフ・キャンベル財団も、同書が比較神話学の知見をもとに、英雄の冒険と変容に繰り返し現れる型を論じた著作として紹介しています。

キャンベルがまとめた中心的な流れは、細部を省けば「出発・イニシエーション・帰還」の三つです。イニシエーションとは、通過儀礼や試練を経て新しい段階へ入ることを意味します。英雄は慣れた世界を離れ、未知の領域で試され、何らかの変化や獲得を経て戻ってくる。この大きな弧が、後に「ヒーローズ・ジャーニー」として広く知られるようになりました。

大切なのは、キャンベルが十二段階の脚本テンプレートを最初から提示したのではない点です。『千の顔をもつ英雄』では、三つの大区分の中にさらに細かな段階が置かれ、一般に17段階として整理されます。つまり、現在よく見かける「12ステップ」はキャンベルの本そのものと同一ではありません。

「モノミス」は、一つの神話を探す見方

キャンベルはこの共通する型をモノミス、日本語では「単一神話」などと訳される考え方で捉えました。世界各地の物語を、互いに無関係な断片としてではなく、似た変容の型を持つものとして比較する視点です。

ここで、話を少し慎重にします。世界中の神話が同じ形をしている、と証明されたわけではありません。文化や時代ごとに神話の意味は異なり、すべてを一つの型へまとめる比較方法には批判もあります。したがって、モノミスは多様な神話を読むための一つの強いレンズと考えるほうが安全です。

神話は「面白いから」だけで何千年も残ったわけではない

なぜ似た物語が長く語られるのか。ここで「人間の脳がこの型を好むから」と一言で片づけると、話が急に雑になります。

神話には娯楽だけでなく、宗教儀礼、共同体の由来、社会の規範、死や自然現象の説明、教育など多くの役割がありました。口承で伝えられたものもあれば、祭儀や文学作品、宗教文書の中で保存されたものもあります。残った理由は一つではありません。

それでも、主人公が境界を越え、試練を受け、変化して戻るという筋は、人生の変化を物語として理解する際に扱いやすい形です。故郷を離れる、成人する、仕事を変える、喪失を経験する、新しい立場を引き受ける。現実の人生は十二段階に整列してくれませんが、「以前の自分ではいられなくなる経験」を語るとき、旅の形はよく働きます。

似た構造が見つかることと、その構造だけが物語の魅力を生むことは同じではありません。言葉の美しさ、人物の複雑さ、歴史背景、笑い、恐怖、音楽、映像表現なども、作品の魅力を左右します。

似た形があることと、同じ原因から生まれたことは別

ここは歴史を読むうえで重要です。遠く離れた地域の物語に似た型が見つかったとしても、それだけで「一方から他方へ伝わった」「人類共通の心理が同じ物語を生んだ」と断定はできません。交流によって筋やモチーフが伝わる場合もあれば、別々の社会で似た問題を扱った結果、近い形になる場合もあります。

キャンベルの方法が魅力的なのは、細部の違う神話を横に並べ、共通する動きを大胆に見せたことです。一方、その大胆さは文化ごとの歴史や宗教的な意味を薄くする危険も持ちます。1992年にイェール大学出版局から刊行されたマーク・マンガナロの研究も、キャンベルらの比較方法が多様な文化資料を「普遍的な」大きな物語へまとめる点を批判的に検討しています。

ですから、ヒーローズ・ジャーニーを使うときは二段階で読むと理解しやすくなります。最初に共通する型を見つけ、次に「この作品ではなぜここが違うのか」を見る。共通点だけで終わらず、差異へ戻ることで、比較は型当てゲームから歴史の読み比べに変わります。

『スター・ウォーズ』で古い型が宇宙へ飛び出した

キャンベルの考えを現代の大衆文化と結びつけるうえで、ジョージ・ルーカスは欠かせません。スター・ウォーズ公式サイトは、ルーカスが初期の構想段階からキャンベルの著作を学び、『スター・ウォーズ』の創作で直接参照したと説明しています。

興味深いのは、ルーカスとキャンベルが最初から一緒に映画を作っていたわけではないことです。公式サイトによれば、二人が対面したのはオリジナル三部作の完成後でした。ルーカスは先にキャンベルの本を読み、その考えを創作へ取り込み、のちに本人と交流するようになります。

第1作のルーク・スカイウォーカーを思い浮かべると、対応関係は見つけやすくなります。辺境の日常から始まり、外の世界へ向かうきっかけが生まれ、導き手と出会い、故郷を離れ、仲間や敵に遭遇し、大きな危機へ進む。古代神話の特定の一編を映画化したのではなく、複数の神話に見いだされた型を、新しい宇宙冒険の中で働かせたと見るほうが近いです。

しかも、舞台は砂漠の惑星や宇宙船です。見た目は未来的なのに、物語の運びには古い神話を読むときの親しみがある。この組み合わせが、『スター・ウォーズ』とキャンベルを語るときの面白さです。

キャンベル自身は映画をどう見たのか

二人は1984年に出会い、その後交流を深めました。キャンベルはのちにルーカスの牧場でオリジナル三部作をまとめて鑑賞し、映画に使われた神話的な構造について高く評価したとスター・ウォーズ公式サイトは記録しています。

ボグラーは神話研究を「書き手の道具」へ組み替えた

次に登場するのが、脚本家・ストーリーコンサルタントとして活動してきたクリストファー・ボグラーです。ボグラーはキャンベルの考えを映画や物語制作に応用し、書き手が扱いやすい形へ整理しました。

日本では2002年に『神話の法則 ライターズ・ジャーニー』が刊行され、2022年には増補された25周年記念版の邦訳『作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造』がフィルムアート社から刊行されています。

この二冊の関係は、単なる新版というだけでなく、日本語圏でボグラーの方法が長く読まれてきたことも示します。かなり以前に『千の顔をもつ英雄』と『神話の法則 ライターズ・ジャーニー』を続けて読んだ記憶があります。きっかけは当時触れていた神田昌典氏周辺の著作や音声教材だったと思います。二冊を並べて読むと、神話の分析が創作技法へ変換されていく流れが見えやすくなります。

8つのアーキタイプは「人物の職名」ではない

ボグラーは、物語に現れる代表的な機能をアーキタイプとして整理しています。アーキタイプは「元型」と訳され、繰り返し現れる人物像や行動の型を指します。

  • ヒーロー 物語の中心で行動し、変化を引き受ける存在
  • メンター 助言や知恵、訓練などで主人公を導く存在
  • ヘラルド 変化や冒険の始まりを告げる存在
  • スレッショルド・ガーディアン 重要な境界で主人公を試す存在
  • シェイプシフター 立場や見え方が変わり、判断を揺さぶる存在
  • シャドウ 敵対者や主人公の内側の恐れなど、対決すべき暗い側面
  • アライ 主人公を助ける仲間
  • トリックスター 秩序を揺さぶり、変化や笑いを持ち込む存在

これらは固定した配役表ではありません。一人の人物が場面によって複数の機能を担うこともあります。「この人物はメンターだから最後まで師匠役」と決めつけるより、物語の中で今どんな働きをしているかを見るための言葉です。

キャンベルの17段階とボグラーの12段階は同じものではない

現在、ヒーローズ・ジャーニーとして紹介されるときによく使われるのが、ボグラーの12段階です。本人が公開している講義用資料でも、次の順序が示されています。

段階日本語での要約役割
1日常の世界主人公の普段の状態を示す
2冒険への誘い変化のきっかけが来る
3冒険への拒絶未知への恐れや迷いが出る
4メンターとの出会い助言や支援を得る
5第一関門の突破慣れた世界から外へ踏み出す
6試練・仲間・敵新しい世界の関係を学ぶ
7危険な場所への接近大きな試練へ備える
8最大の試練中心的な危機に直面する
9報酬危機を越えて何かを得る
10帰路得たものを持って戻り始める
11復活最後の試練を経て変化が確かになる
12宝を持って帰還変化や獲得を元の世界へ持ち帰る

この12段階は、キャンベルの17段階をそのまま削って番号を振り直しただけではありません。映画の構成を考えやすいように、ボグラーが再整理した実務的なモデルです。キャンベルが「神話をどう読むか」に重心を置いたのに対し、ボグラーは「物語をどう設計し、直すか」に使える道具へ寄せています。

したがって、二人を同じ理論の同じ版として扱うと分かりにくくなります。キャンベルは比較神話学の枠組み、ボグラーはその影響を受けた創作実務のモデル。ここを分けると、スター・ウォーズとの関係もすっきりします。

なぜ同じ構造でも、同じ物語にならないのか

十二段階を見たところで、「では、これを使えば全部同じ話になるのでは」と感じる人もいるはずです。

構造が同じでも、主人公が何を望むか、何を恐れるか、どんな社会に生きるかで物語は変わります。帰還ひとつを取っても、故郷へ実際に戻る話もあれば、心の持ち方だけが変化する話もあります。試練が戦闘とは限らず、家族との対話や仕事上の選択として表れることもあります。

さらに、すべての優れた物語が12段階をきれいに踏む必要もありません。順番が入れ替わる作品、いくつかの段階が目立たない作品、そもそも別の構造で動く作品もあります。ボグラー自身の説明でも、ヒーローズ・ジャーニーは物語を考える道具として示されており、機械的なチェックリストにする必要はありません。

この点から見ると、同じ構造が飽きられない理由を「型が優れているから」とだけ説明するのは不十分です。読者や観客が実際に出会うのは、抽象的な12段階ではなく、人物の声、時代、場所、葛藤、演出を持った具体的な作品だからです。

「千の顔」は、型が同じでも人間が違うことを示している

『千の顔をもつ英雄』という題名は、この話を考えるうえで示唆的です。英雄は一つの顔ではありません。古代の戦士、旅人、宗教的な探求者、宇宙を飛ぶ青年、現代の会社員まで、舞台も価値観も違います。

共通して見えるのは、慣れた場所から離れ、未知に触れ、以前と同じ自分では戻れないという変化です。ただし、その変化を何と評価するかは文化や作品によって異なります。何を「英雄的」と呼ぶかさえ、時代ごとに変わります。

だからこそ、ヒーローズ・ジャーニーは答えではなく地図として読むと役立ちます。地図は道を見せますが、旅人の目的までは決めません。物語を読むときは「どの段階に当てはまるか」だけでなく、その作品は型をどこで使い、どこで外し、何を語ろうとしているのかまで見ると、急に立体的になります。

まとめ|ヒーローズ・ジャーニーは「物語を読む歴史」でもある

ヒーローズ・ジャーニーの歴史をたどると、神話の共通性を論じたキャンベル、神話的な型を宇宙映画へ生かしたルーカス、創作者が使える12段階へ整理したボグラーという流れが見えてきます。

一方で、世界の物語がすべて同じだと考える必要はありません。むしろ、似た型の中で文化や時代による違いがどう現れるかを見るほうが、歴史教養としては面白くなります。次に映画や小説に触れたら、「日常から出発し、何を失い、何を持ち帰ったか」を一度だけ追ってみてください。物語の骨組みと、その作品だけの個性を同時に見つけやすくなります。

参考資料