こんにちは。大学入試の歴史問題を解説している当ブログですが、今回は少し視点を変えて、「なぜこのブログが17世紀(約400年前)の時代からスタートしたのか」について、コラムとしてお話ししたいと思います。
歴史の勉強をしていると、「年号を覚えるのが大変」「過去の出来事なんて今に関係ない」と思うかもしれません。しかし、実は歴史には「不思議なリズム」があるのをご存知でしょうか。
歴史は繰り返す?「周期」の不思議
経済学や哲学、さらには東洋思想の世界を見渡すと、時代は一定のサイクルで似たような動きをすると言われています。
たとえば、経済の景気循環説には「コンドラチェフの波」というものがあり、約50年から80年の周期で大きな波がやってくるとされています。
西洋哲学に目を向けると、ヘーゲルの「弁証法」をベースに「歴史は140年で一周するらせん階段のように進む」と説く本もあります。同じ場所に戻ってくるように見えて、実は一段高い次元へと進んでいるという考え方ですね。
さらに東洋に目を向ければ、暦の基本である「干支(十干十二支)」は60年で一回りしますし、古代中国の「易経」も64卦(け)で構成されています。
洋の東西を問わず、多くの先人たちが「50年〜80年(あるいはその倍数)のサイクルで、時代は一巡する」と感じ取っていたのは、非常に興味深い事実です。
では、この「周期」という視点から現代(2020年代)を起点に時計の針を巻き戻してみましょう。まず80年×5周期=400年前の17世紀、そして80年×1周期=80年前の第二次世界大戦前。この二つの時代が、現代と驚くほど似た「顔」をしているのです。
第一の鏡:400年前の17世紀
「17世紀の危機」と現代の気候変動
歴史学において、17世紀は「全般的危機(17世紀の危機)」と呼ばれる激動の時代でした。ヨーロッパをはじめ、世界中で戦争、反乱、飢饉、そして経済の停滞が同時多発的に起こったのです。
驚くべきことに、近年の科学的な研究により、この世界的危機の根本的な原因が「気候変動」にあったことが分かってきました。当時の地球は太陽活動の低下などにより、「小氷期(Little Ice Age)」と呼ばれる寒冷化のピークを迎えていました。ロンドンのテムズ川が凍りつくほどの異常気象は、世界的な農作物の不作と食糧難を引き起こし、それが経済危機を招き、社会不安を増大させ、各地で内乱や戦争の引き金となったのです。
翻って現代はどうでしょうか。私たちは今、寒冷化とは逆の「地球温暖化」という気候変動の危機に直面しています。気候変動が社会の基盤を揺るがし、国家間の対立や経済危機を生み出すという構図は、まさに17世紀の小氷期がもたらした「危機」と酷似しています。
価値観の分断と「正義」の衝突
17世紀のもう一つの大きな特徴は、「宗教戦争」による深刻な社会の分断です。1618年から始まった「三十年戦争」は、カトリックとプロテスタントというキリスト教の宗派対立をきっかけに勃発しました。お互いが自らの「正義」と「信仰」を絶対に譲らず、そこに各国の領土的野心や覇権争いが複雑に絡み合った結果、ドイツ(神聖ローマ帝国)の国土は荒廃し、人口の数割が失われるという凄惨な悲劇を生みました。
現代社会を見渡すとどうでしょうか。SNSの普及も相まって、異なる政治的信条、イデオロギー、文化的な価値観をめぐる「文化戦争」が激化しています。「自分の正義こそが絶対である」と信じて疑わず、異なる意見を持つ者を徹底的に排除しようとする不寛容な空気は、かつての宗教戦争の熱狂と重なって見えます。
17世紀が「現代世界の出発点」である理由
三十年戦争という未曾有の惨禍を経て、ヨーロッパの人々は一つの大きな決断を下しました。それが1648年の「ウェストファリア条約」です。彼らは、互いの宗教的な違いを認め合い、明確な国境を持つ「主権国家」が対等な立場で外交を行うという、全く新しい国際秩序(主権国家体制)を生み出しました。これが、現代まで続く国際政治の基本ルールの原点となっています。
つまり、17世紀とは「現代世界のシステムが産声を上げた時代」なのです。
第二の鏡:80年前の第二次世界大戦前
17世紀から時計の針を進め、今度は現在から80年前——第二次世界大戦前の世界を見てみましょう。
当時の世界情勢を並べてみると、現代との間に驚くほどの共通点が見えてきます。
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第二次世界大戦前(約80年前)
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現代(2020年代)
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帝国主義による植民地・資源争い
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大国間の覇権争い・資源・技術競争
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各国の軍拡競争
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防衛費増額・新兵器開発競争
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民族独立運動・ナショナリズムの台頭
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自国第一主義・社会の分断
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ブロック経済(排他的経済圏)
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関税合戦・経済制裁・デカップリング
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国際連盟の機能不全
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国連の機能不全(大国の拒否権問題)
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いかがでしょうか。単なる偶然で片付けるには、あまりにも似たようなことが起こっていると思いませんか?
二つの「鏡」が示すもの
ここで、17世紀と第二次世界大戦前、そして現代の三つの時代を並べて整理してみましょう。
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テーマ
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17世紀(400年前)
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第二次世界大戦前(80年前)
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現代(2020年代)
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気候・環境
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小氷期による食糧難
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干ばつ・農業危機
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地球温暖化・異常気象
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経済
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銀の枯渇・世界的金融危機
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大恐慌・ブロック経済
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格差拡大・経済制裁
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覇権争い
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東インド会社による商業戦争
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帝国主義・植民地争奪
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米中対立・技術覇権
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社会の分断
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宗教戦争・宗派対立
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民族主義・ファシズム
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イデオロギー対立・文化戦争
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国際秩序
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ウェストファリア体制の誕生
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国際連盟の機能不全
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国連の機能不全
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こうして並べると、人類は同じような「危機」を、形を変えながら繰り返していることが見えてきます。そしてヘーゲルの言葉を借りれば、それは単なる「繰り返し」ではなく、一段高い次元へと進んでいく「らせん状の歴史」なのかもしれません。
歴史を学ぶ本当の意味とは
私がこのブログを17世紀から書き始めた理由は、まさにここにあります。
私たちが今直面している気候変動、経済危機、価値観の分断、そして国際秩序の揺らぎといった問題は、決して突然現れたものではありません。それは、400年前に作られた「近代」というシステムの限界や、人類が周期的に繰り返す「危機」のパターンが再び表出しているに過ぎないのです。
歴史を学ぶ意味は、決して「昔の出来事を暗記してテストで点を取るため」だけではありません。過去の出来事からパターンを読み解き、教訓を得て、現代に生かす。過去の失敗を繰り返さないための「羅針盤」を手に入れる。そのためにこそ、歴史の勉強があるのです。
大学入試の歴史問題も、実はこうした「現代へのメッセージ」が込められた良問がたくさんあります。これからも、400年前から現代へと続く歴史の流れを一緒に辿りながら、皆さんと歴史の面白さを深掘りしていけたらと思います。

